こんにちは、スタッフますだです。
12月になり寒さが本格的になってまいりましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
仙台は初雪が降り、年の瀬へ向けて街が活気付いております。

さて、今回は、10月末から11月末にかけて開催された「乾漆ランプシェード ワークショップ」の様子についてレポートさせていただきます。実施内容についてはこちらのブログをご覧ください。(全6回『自分でつくる“乾漆(かんしつ)”ランプシェードワークショップ』


DAY1 10.24  漆を学ぶ①・刷毛塗り

特別講師:宮城大学土岐謙次先生

まずは漆についての基礎知識を学ぶため、宮城大学デザイン情報学科 土岐謙次先生より「ゼロからの漆」と題したレクチャーをしていただきました。伝統工芸と言われているものの、日本国内で使われている漆はほぼ中国産で、国内産の漆は1%というお話にみなさん大変驚いていらっしゃいました。

漆についての基礎知識を学んだ後は、早速漆塗りの作業に入ります。今回は寒冷紗と漆を重ねる「乾漆」という技法を使ってランプシェードを制作していくので、そのための型が必要になります。その型は、レーザーカッターで切断加工してドーム型に組み立てたアクリル板をもとに、自作のバキュームフォーミングマシンで塩ビ板を加工して制作しました。くわしくはこちらのURLをごらんください。(Fabble「Simple Vacuum Former」http://fabble.cc/fablabsendai/simplevacuumformer

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バキュームフォーミングのデモンストレーションを見学していただいたあとは、刷毛を使って漆塗りをしていきます。今回使用したのは、朱色と黒色の漆です。漆を塗るときは、刷毛で配り、伸ばすように薄く塗ることが基本です。厚く塗り重ねてしまうと表面の漆だけが硬化してしまい、中の漆が延々に硬化せずぶよぶよのままという現象が起こってしまうので、みなさん慎重に筆を動かしていました。

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朱色の漆を塗り終えた型がこちら。朱色の鮮やかさがまぶしいです!

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今回は、自分が使った刷毛を菜種油できれいにするところまで体験します。油で刷毛をしごいては漆を掻き出し、油でしごいては掻き出しする作業を、油が透明になるまで延々おこなっていきます。だいたい15分以上は掛かる作業です。これが終わったら今日の作業は終了です。

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DAY2 10.25  漆を学ぶ②・錆づけ・寒冷紗積層

特別講師:郷自然工房 佐藤和也さん

2日目は、いつも漆のワークショップでお世話になっている郷自然工房 佐藤和也さんにお話をしていただきました。職人さんとしてこれまで取り組んできたお仕事や、漆を扱う上で気をつけなければならないこと、漆職人の現状や今後の展望など、1日目にお話いただいた土岐先生とはまた違った視点でのお話を伺うことができました。佐藤さんは歴史的な建造物の漆塗りをメインにこなされている方なので、佐藤さんが塗ったお寺を見に行こう!という話でみなさん盛り上がっていらっしゃいました(´▽`)

光寿院様(宮城県仙台市)、洞川院様(宮城県大崎市)など、佐藤さんのお仕事の実績はホームページのこちらからご覧いただけます。

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佐藤さんによるレクチャー後は、早速作業に入ります。今回おこなうのは、「錆づけ」と「寒冷紗積層」です。まずは、石の粉末である「砥の粉(とのこ)」と水と漆を混ぜて、「錆」をつくっていきます。錆づけはシェードの強度を保つために必要な工程です。

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錆ができたら、前日に漆塗りを終え既に硬化している型に歯ブラシで塗っていきます。本来であれば刷毛で塗っていくそうですが、慣れていないひとは歯ブラシで塗ると塗りやすいと土岐先生にアドバイスを受けたので、今回はその方法で進めてまいります。

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DAY3  寒冷紗積層

錆が硬化したあとは、食器用スポンジで軽く研磨して寒冷紗の積層作業に入ります。まず、米糊と漆を混ぜてつくった「糊漆」を型全体に塗り、それが硬化しないうちに寒冷紗を重ねていきます。重ねた寒冷紗の上から歯ブラシでかたちをなぞり、糊漆と寒冷紗の隙間やシワがなくなったらもう一度糊漆を塗り、寒冷紗を重ねていきます。この作業を寒冷紗が6枚重なるまで続けていきます。
ただし、一気に6枚重ねてしまうと中の漆が硬化しなくなるので、今回は2枚だけ重ねることにしました。残りの4枚は、参加者のみなさんにそれぞれスケジュールを調整してFLATに来てもらい、積層の作業をしていただくことにしました。

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DAY4  刷毛塗り

寒冷紗の積層作業が終わったら、最後につや消しの黒漆で仕上げていきます。この頃になると、みなさん漆は手馴れたものなので、スタッフがアドバイスせずともさくさくと作業を進めていらっしゃいました。あとは10日間ほど漆室で保管して、ワークショップ最終日の離型作業を待つのみです。

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DAY5  11.28 離型・点灯式

いよいよワークショップ最終日です。まずは、これまで塗り重ねてきた乾漆を型から剥がす作業をおこないます。1ヶ月間地道に塗り重ねてきた作品なので、みなさん緊張した面持ちで恐る恐る指を動かしています。周りからじわじわと指を入れて塩ビ板と漆を引き剥がしていくのですが、思い切りのいい方は一瞬でえいっと剥がしていました。

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出来上がりはこのようになりました。漆の光沢がとてもきれいです!艶やか!
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離型が完了した後は、電球を取り付けるために乾漆のカット作業に入ります。あらかじめスタッフがどのような切り方をすればよいか実験をおこなった結果、治具をつくってレーザーカッターでカットする方法が一番美しく仕上がったので、今回もその方法でカットをしていきます。ちなみに、ハサミやカッターでカットする方法も試してみましたが、力が加わりすぎて表面の漆の層がひび割れしてしまいました。手で加工するのはなかなかむずかしそうです。

まずは、治具をつけるために乾漆の中心に穴を開け、MDF板でつくった治具をセットします。

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治具をセットしたら早速レーザーカッターで加工していきます。はじめに、スタッフ小野寺がレーザーカッターの仕組みや可能な加工方法について説明後、あらかじめ作成した図面と数値で加工の設定をおこないます。「レーザーカッターは太陽光と虫眼鏡で黒い紙を焦がすのと同じ原理で、熱で切断加工と彫刻加工をしていきます」という説明に、みなさん成る程と頷いていらっしゃいました。

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レーザーカッターはピント合わせが重要です。今回はドーム型になっている根元の部分を縁取りするように切断していくので、ピントをその高さに合わせます。わたしたちもこのような方法でピント合わせして加工するのは初めてだったので、実はとても緊張していました。

使用機材:trotec speedy 100 (切断加工:Power35 / Speed0.7)

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切断加工が終わった乾漆がこちらです。綺麗にスパッと切り抜けています。同様にソケットを取り付ける中心部分も切断し、加工によるススを拭き取ったらシェード部分は完成です!

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ここからはソケットの取り付け作業です。3Dプリンタで出力したコネクタと電球をセットしていきます。組み立てが終わった方から順に点灯テストをしてみたのですが、やわらかい暖色のLEDの光が漆に反射する様を見てみなさん歓声をあげていらっしゃいました。たしかに、波打つ漆のカーブに映り込む光はとても美しかったです。

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今回、一般的な漆塗りのワークショップと異なる点は、「道具の後片付けを行うこと」「ワークショップの日が選べること」だったと思います。もともと実験的なワークショップだったので、乾漆でランプシェードをつくるという目的のほかに、一般の方がどこまで漆を気軽に扱えることができるようになるのかを確認する目的もありました。と言いますのも、今後このようなワークショップを全国各地で開催できるものなのか検討する必要があったからです。参加者のみなさんにアンケートや質問をさせていただいたところ、片付けを含め作業自体は苦にならず、むしろ楽しかったという感想を多くいただきました。ただし、楽しいけれど漆塗りの道具全般を揃えるというハードルが高いというご意見が多かったのも事実です。たしかに、漆塗りにまつわる道具たちは普段使わないものなので、あまり気軽に手を出せるものではありません。一度や二度試してみたいというくらいではん、なかなか手が出ないものかと思います。

今回のワークショップで出たご意見や問題点をもとに、今後のワークショップの手法について再度内容を検討していきたいと思います。

また、これまでは乾漆シートをレーザーカッターで加工するなど、既にある素材をデジタルファブリケーション機器で加工して組み合わせていくワークショップがほとんどでした。なので、今回のようにデジタルファブリケーション機器で型をつくって「素材をつくる」体験は、みなさんあまり参加されたことがなかったのではないでしょうか。特に、今まで平面として使用していた乾漆シートを、レーザーカッターで型を作って立体のシートにする実験はこれまでになかった試みだったと思います。
なにをつくるにしても、まずは素材をつくらなければものは出来上がりません。機材だけ、手作業だけ、ではなく、デジタルと手作業のちょうどいい塩梅を目指して、これからもものづくりをしていければと思います。

まずは、約1ヶ月間にわたる長丁場のワークショップに参加いただいたみなさまに感謝を申し上げます。みなさんお疲れさまでした!そしてありがとうございます!

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おまけ  ランプシェードがある風景

参加者のみなさんから、ご自宅でランプシェードを使用されている風景を写真で送っていただきました!どのお写真もとてもすてきです!(´▽`)
これからみなさんの生活に、自分で仕上げた「漆」が馴染んでいくのをスタッフ一同楽しみにしております。

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