これまで5回に分けて、FabAcademyの受講レポートをまとめてきました。

– 【小野寺のファブアカデ道/Week01〜03】デジタルファブリケーションの基礎をもう一度

– 【小野寺のファブアカデ道/Week04〜06】はじめての回路設計は山あり谷あり

− 【小野寺のファブアカデ道/Week07〜10】漆と回路と不思議マシン

− 【小野寺のファブアカデ道/Week11〜14】飴と鞭の4週間

− 【小野寺のファブアカデ道/Week15〜18】書いて削って考えて

18週のレクチャーを終え、最後はこれまで学んだ技術を総動員し、ファイナルプロジェクトの作品制作に取り組みます。

Week01でファイナルプロジェクトに関する大まかなアイディア出しをしたのですが、半年近く色々なことを学んでいくと、アイディアがどんどん膨らんでいくのは当たり前。Week17,18で改めて考えたアイディアを元に、およそ2週間かけて制作を行ないました。


 

【Final Project: The tool for making “SU”】

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わたしが制作したものは、この『和紙を漉くための“簀(す)”を編むための道具』です。
これまでファブラボ仙台では、デジタルファブリケーションと伝統工芸・素材・技術のコラボレーションをテーマに色々なプロジェクトを進めてきました。今回のファイナルプロジェクトもその一環として「伝統工芸職人さんの技術の継承」をテーマに作品をつくりたいと考えたのが制作の背景にあります。加えて、FabAcademyでは、世界各地の方に作品を見てもらうチャンスであったということも理由のひとつです。
伝統工芸技術の継承が課題となっている要因の一つに、「道具をつくる職人さんの減少」が挙げられます。そのため、工芸のための道具は非常に貴重かつ高価で、一般の方が容易に手にすることは困難です。それにより、プロダクトとして完成された伝統工芸品に触れることはあっても、それを自らの手で作る体験をすることは難しい状況にあります。
そこで、オープンソースの「簀(す)を作るための道具」を作れば、(色々手順が入るのでハードルが高くはありますが)和紙漉きをしたい人自身で道具をつくり、自分の和紙を漉く、という未来をつくることができるのではないかと考えたわけです。加えて、糸での竹ひごの編み方をパソコン上でデザインし、それに連動してレールが移動するという仕組みを持たせることに。竹ひごを編むための糸は、和紙を漉いたときにうっすらと模様として入るため、糸は真っ直ぐ編まれていればいるほど良いとされています。 ただ、それは全て手作業で道具を作ってきたからそう言われているだけなのでは?と思ったのがこの仕組みを持たせようと考えたきっかけです。プログラムされたマシンできちんと作っていくことができるのであれば、糸をなみなみに編み込んで、糸自身の模様としての存在感を強くするというのものアリなのかもなと。そうすることで、和紙のデザインの可能性を広げられるのではないかなと考えました。

 

全体の流れをまとめた動画がこちら。
Processing上でデザインを作成し、そこで作られたコードをArduinoのコードに埋め込んでプログラムを作成。今回はプロトタイプなので、このあたりはもっとスマートにできるように改善していきたいところです。
Arduinoからプログラムを実行し、道具側の赤いボタンを押すとLEDが点滅し動作が開始。非常に細かな動作なので動画ではなかなか分かりにくいのですが、ボタンを一回押すたびに、デザインに応じて糸の引っかかったレール部分が左右に移動するというもの。竹ひごの設置と編み作業は自分の手でやらなければならないので、ここもまたクリアしていけたらいいなと思います。


 

ここまで作品についてまとめましたが、制作についても簡単にご紹介します。

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今回の作品の場合、Arduinoで制御をするのがてっとり早いと大網よりアドバイスが。しかしながら、製品として完成しており、仕組みがブラックボックス化されているため、このFabAcademyではArduinoをそのまま使用することはNG…。だとしたら自分で作るしかない!と、Naninoというオープンソースの互換機を参考にしながらオリジナルのArduino互換機を制作しました。通称「Kawaiino」です。

 

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しかしながら、Kawaiinoは発熱トラブルが多発し、とりいそぎArduinoで試作をしてみることに…。Arduino用モーターシールドを使って、ステッピングモーターの制御プログラムを作成。

 

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Arduino、Processing用のプログラムの作成と同時に道具本体の設計と組み立ても進めていきます。ひとつ作業を進めていると、「あ、あれもやらなきゃ!」とどんどん他のタスクが生まれてきて、本当にしんどかったです…。

と、制作について少しだけご紹介しましたが、制作中は以下のTumblrでリアルタイム制作記録をまとめていました。

FabAcademy2016 FinalProjectのまとめ:http://fabdera2016.tumblr.com/

設計やプログラミングを試行錯誤している様子も全てまとめているので、ぜひ合わせてご覧ください!


 

そして先日、中国深センで開催された第12回ファブラボ世界会議FAB12にて、FabAcademyの修了式に参加してきました〜!

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(Photo by Mio Kato)
これまで画面上でしか見たことのなかった受講生が一堂に会し、壇上でニールから一人一人修了証書をもらいました。受講生はもちろんなのですが、アドバイスをもらっていたチューターたちに会えたのもとても感慨深かったです。「この人もあのプログラムを乗り越えたんだ…」と思うと、たとえ国は違っても一気に親近感が湧いてきます。
「作ってみたい!」と思うものから「なんだこれ??」という不思議な作品まで、本当に様々なプロジェクトばかりなので、ご興味のある方はぜひ世界各国のファイナルプロジェクトを見てみてくださいね!

今年の卒業生の作品はこちら:http://archive.fabacademy.org/archives/2016/master/slider.html


FabAcademyでは、これまであまり触れてくることのなかった電子工作やプログラミングにチャレンジできたのがとても良かったです。とは言え、今回のレクチャーを受けたからといって作りたいものがなんでも作れるようになったり、すぐに仕事につながるかといったらそんなことはもちろんありません。ですが、電子回路の見方やプログラムの考え方を理解できるようになったというのはやはり大きな収穫です。

当初は、毎週出されるハードな課題を乗り越えられるかどうか非常に不安でした。しかしながら、約50万円という大金を支払って受講しているということ、そして何より全世界で一緒に苦しみながら課題に取り組んでいる受講生がいるのだということが支えとなり、なんとか最後までやり抜くことができました。半分寝ながらレクチャーを受けたのも、いまとなっては良い思い出です。

FabAcademyは一区切りつきましたが、これは終わりではなく次のステップの始まりにすぎません。やっておしまいではなく、ここからは学んだことをどうやってラボに活かすか、ユーザーさんに伝えていくか、じっくり考えていきたいと思います!