2020年1月はじめ、アイスランドのウェストマン島で行われた、Nordic FabLab Boot Camp(ノルディック・ファブラボ・ブートキャンプ)。北ヨーロッパ諸国のファブラボ関係者があつまり、ラボ運営、各自のプロジェクトそして加工技術まで様々な情報交換の場として毎年開催されているイベントです。今年のブートキャンプに参加した大網のレポート後編、今回は期間中に紹介されたソフト&マシンなどのテック情報に注目していきたいと思います。

とはいいつつも、全ての情報を詳細に書いていくと、凄まじい文量になってしまうのでリンク集 + コメントという形でまとめていきたいと思います。
それでは行きましょう。

Nordic FabLab BootCamp ~テック編~

 

HAAS

金属加工CNCの大手HAASの3軸CNCルーター。今回のブートキャンプではエントリーモデルのTM-1Pのデータ制作から切削まで見学することができました。価格もオプション無しで300万円代前半くらいなので、本格的な金属加工CNCをこれから始める工房には、費用対効果がちょうど良い感じなのかなと!これでガンガン製造するのは難しいにしても、金属切削のイロハを学んだり、ワンオフの特注品をつくるぐらいなら十分な性能でした。欲しいなー!

TM-1Pで切削されたツヤッツヤのサンプル。自転車パーツとか高負荷な目的の部品を自作できるの燃えますよねー。

工房にはHAASのNC旋盤もありました。金属の回転体も作れちゃう!

 

HAIMER 3Dセンサー

YouTubeでCNC加工の動画とかを漁ってると、たびたび登場する誤差を測る、あのメーター。なんだろうなぁ~便利そうだな~と思っていたら、アイスランドで出会いました。HAIMERの3Dセンサーって代物らしいです。これをスピンドルの代わりにCNCルーターにつけることで、マシンのファインチューニングだったり、加工中の細かーい原点合わせとかできちゃうんですよねー欲しいですよねー

HAIMERのサイトにはアナログなタコメータータイプな他にもデジタル表記や小型機種などバリエーションが紹介されてます。

 

Edmund Harris

エドモンド・ハリス(Edmund Harris)は、米国アーカンソー大学に在籍している数学者。数学によって設計可能な形状や工法を研究していました。奥さんがアイスランド人という縁もあり、今回のブートキャンプに参加したそう。個人的には、期間中もっともインスピレーションを与えてくれた人物で、今回のテック編でも、彼の発明がいくつか紹介していこうと思います。

5軸CNC PocketNCで木材から幾何学的に形状を削り出すのがエドモンドの趣味の一つ

 

Curvahedra by Edmund Harris

Curvahedra(カーブヘドラ)は、エドモンドが設計したパズル。タコのように曲がった足が特徴的なパーツを組み合わせて、様々な形状を生み出すことができるようになっています。編み物とか多面体とか好きな人は、ドツボにはまりそうなパズルで、時間が許す限りずっと遊んでたくなるような中毒性があります。素材は”マイラーシート”っていう本の帯に使われることもあるプラスチックシートとのこと。

 

desmos.com

desmos.comは、入力した数式を可視化してくれるサイト。数式のグラフっていうと、のっぺりしたS字が一筋うにょんと描いてあるようなイメージですが、desmos.comはパラメータをアニメーションよろしく動かしたりできるので、こんなものがサクっと作れちゃいます。これを紹介してくれたエドモンドにどうやって、数学的な知識をデザインに応用してるの?と問いかけたところ、「PLAY / UNDERSTAND / CONTROL」(まずは、いじって遊んでみる。そしたら次は理解していく。それを繰り返してパターンを自分の思うとおりに制御できるようになっていく)という言葉を頂き、まだまだ遊び足りてないなぁ、と反省しました。

右下のdesmosロゴをクリックすると、数式を自分でいじれるページに飛ぶのでお試しあれ~

 

Mathematics for Human Flourishing

エドモンドからのワークショップで、はじめにおススメされた書籍。数学の公式や定理は学校で学ぶけれど、じゃあそれって人間にとって直感的にはどういう意味や形を持つの?ってことに関してまとめられた本らしいです。高校~大学の基礎教養レベルで止まっていた数学知識の整理のためにも読んでみようかなーって一冊。

早く買わねば…

 

BarkBeetle & CAMel

なんと今回のブートキャンプには、CAM開発者が2人もいました!どちらのCAMも3軸はもちろん、まだ実験段階だけど5軸も対応しており、どちらもオープンソース。さらに、今回のブートキャンプをきっかけに2つのプログラムを統合しようという案も出ているとのこと。何かと高価になりがちで個人では手を出しにくいCAMソフトですが、実験的でオープンなこの2者が面白い流れを作ってくれそうです。

BarkBeetle by Fellesverkstedet

ノルウェーはオスロのメイカースペース”Fellesverkstedet(ノルウェー語で市民工房の意)”が開発しているCAMプログラム。Rhinocerosのプラグインである、Grasshopperの拡張機能として作られ、実際に工房内でバリバリ使われているそう。3Dミリングだけでなく、3Dプリンティングにも対応。

CAMel by Edmund Harris

エドモンドが開発しているCAMシステム。「CNCミリングのビギナーか、CNCミリングの可能性をより広げたいエキスパートがターゲット」とうたっており、製造に使うようなプログラムというよりは、より実験的な用途に向けたユニークなツールパス製作機能のセットになるもよう。2020年夏にGPLライセンスで公開予定。こちらもGrasshopper上で動くプログラム。そういえば、2つのCAMはどちらも動物の名前を付けられていて、Rhinoユーザーとしてはついついニヤけてしまう茶目っ気を感じてしまうのも共通点のひとつかも。

Barkbeetleの操作画面。公開されているGithubのページには詳細なチュートリアルも載せられている。

 

SimplyFAB20

IAAC在籍のEduardo Chamorro Martinが開発した、RolandDG MDX-20を動かすためのインターフェース。簡単!かわいい!ちゃんと動く!の三拍子そろったスゴイやつ。古いマシンに新たな使い道をプラスする感じ、大好物です。
SimplyFAB-20 – GUI for Roland MDX-20 Githubページ

あなたのとこのMODELAも、これでイメチェンしてみては?

 

Universal G-Code Sender + Arduino + ShopBot

我らがFAB番長、FellesverkstedetのJens Divik(イェンツ・ディビク)が今回も魅せてくれました!工房のShopBotを公式のマザーボードではなく、どこにでもあるArduino UNOでコントロールするというウルトラハックを披露して、みんな大ウケ。イェンツによると、オープンソースなCNCコントロールソフト、UGS(Universal Gcode Sender)と、ArduinoをCNCのマザーボードとして利用するGrblの組み合わせで実現したとのこと。マザーボードを介さず、高級モータードライバーと低価格庶民型マイコンが繋がってる姿。あいかわらず、発想がめちゃくちゃでスゴイ…

おなじみのコントロールボックスからArduinoが制御を奪っている図

 

OBS(Open Broadcast Software)

今回のブートキャンプでは、要所要所で動画配信が行われていたのですが、配信に使用されたソフトのミニレクチャーも行われました。Open Broadcast Softwareは、無料で使えるビデオ録画 / 配信ソフトで、多くのYouTuberやゲーム実況配信者に使用されているそう。使い勝手も良さそうだったので、僕もインストールして触ってみようかなと(次回のイベントとかの録画に向けて…)

基本、ドラッグ&ドロップな操作感

 

Islensk sjonabok ~ornaments and paterns found in Iceland~

アイスランディックニットといえば世界で有名な厚手のニットで、特にセーターが有名です。そんなアイスランドのテキスタイルパターンをまとめた辞典を買ってきました。このパターン集はアイスランド美術大学と国立家内制手工業組合博物館の共同作業で作られたもので、収められているパターンもそうなんですが、冒頭の各パターンを幾何学的に分類していく下りとか本当に面白い。すんごいプログラマブル。

北国から届いた重厚な装丁の一冊となっております。

ということで、全2回にわたってお届けしたNordic FabLab Bootcampでした!
「ファブラボのネットワークに参加するにはどうしたらいいですか?」という質問を良く聞かれたり、目にすることが多いのですが、一番良い方法は”時間を取って直接会いに行くこと”なんだなと再確認した旅でした。テクノロジーが進んで、いつでも話せる、なんでも調べられる時代になったとはいえ、やっぱり面と向かって話す時の情報量には適わないんですね。
今年も足を使う1年にしたいなという自戒と共に、レポートの締めとしたいと思います。

FLAT 大網